チヨさんと私は・・・

私が財産管理をしていた方が亡くなって一週間がたちました。

先週の今頃、私はまだ霊安室にいたのです。

病院の駐車場で見上げた月食の空は、とてもとても綺麗でした。


それから4日間、
通夜、葬儀と慌ただしく過ぎ

ようやく少し落ち着きを取り戻しました。

後見業務は、被後見人の死亡をもって終了します。

従って私は、臨終の席から直ちに帰ってくることもできるのです。

しかし、身寄りといえば87歳の高齢の奥さんだけ。

その人を一人置いて帰ってくることは、普通の感覚の持ち主であればできないはず。

そこで私は葬儀一式を執り行うことになりました。

後見人に就任してからこの日のことは予想できていましたし、覚悟もしていましたので

特段動揺もありませんでした。




亡くなった方の奥さんのチヨさんは大正生まれ。
ずっと畑仕事をしてきた人ですので
腰は90度に曲がり、ごつごつした手が働き者だった昔をしのばせてくれます。


いわゆる昔の「尋常高等小学校」しか出ていませんが、
後見制度を新聞で知り、ご主人の為に利用を決めるほど頭の良い人です。


葬儀も済んで2日後チヨさんを訪ねると、さすがに気丈なチヨさんも憔悴していました。


チヨさんは涙を流しながら

「私が主人のように呆けて訳が分からんくなったら、主人にしてくれたように私の後見人になってくれるか?」と私に尋ねました。


そこで私はチヨさんに「任意後見契約」の説明をしました。

「任意後見契約」とは、頭のしっかりしているうちに将来の後見人を定めて契約を結ぶこと。

まだ元気なうちに一部の財産管理などを委任し、
判断能力がなくなったら(=認知症などになったら)、任意後見人となって本人の財産管理を行います。

私たち専門家にとっても、なかなか難解な制度なのですが
驚くことにチヨさんは私の説明を理解し
「それを頼む」と言うのです。

私は5年前に、ある方とこの「任意後見契約」を結んだのですが
あることがあり、この契約を解約する、という「憂き目」にあっています。

「あること」とは、締結した本人の遠い親戚が現れて、財産管理は自分たちで行う、ということになり
締結した当の本人が意思を翻してしまったのです。


この時の「苦い経験」がトラウマのようになって、
これについては私はとても慎重になっています。

チヨさんとはもう2年のお付き合いで、信頼関係も構築されています。

おそらくご主人がなくなって私が後見人を辞任したのちは、今度はチヨさんに関わっていくようになるだろうな、とは感じていましたが

即答せずに
「春暖かくなるまでよく考えてね」と伝えました。

私にとっても、任意後見契約を締結することは、
法定後見人を受任するより100倍くらい覚悟のいることです。

チヨさんも、気持ちが沈んでいる今、重要なことを判断するのは好ましくありません。



でもきっと、桜の咲くころ、

チヨさんと私は一緒に公証役場へ行き、

この契約を結んでいるのだろうな。







Posted by しかない行政書士事務所 at 01:08│Comments(0)
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